大判例

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東京地方裁判所 昭和51年(ワ)9379号 判決

原告

協同運輸株式会社

右代表者

雨宮照雄

右訴訟代理人

羽田忠義

小池剛彦

右訴訟復代理人

宮崎好廣

被告

東京中央青果株式会社

右代表者

鈴木長一郎

外一七名

右被告一八名訴訟代理人

依田敬一郎

被告

株式会社大宮中央青果市場

右代表者

永峰栄一

外五名

右被告一四名訴訟代理人

内田善次郎

右訴訟復代理人

内田文喬

被告

東京築地青果株式会社

右代表者

針替豊

右訴訟代理人

美村貞夫

被告

東京淀橋青果株式会社

右代表者

老川為次郎

右訴訟代理人

余吾要

被告

岐果岐阜青果株式会社

右代表者

森崎正夫

外一名

右被告両名訴訟代理人

美村貞夫

主文

一  被告東京中央青果株式会社は金一八万四七〇五円

被告東京新宿青果株式会社は金一〇万五九八一円

被告東京荏原青果株式会社は金七万五九一二円

被告東京千住青果株式会社は金八万八七八四円

被告江東青果株式会社は金六万二一一一円

被告東京多摩青果株式会社は金六万〇九八五円

被告東一西東京青果株式会社は金六万三〇九〇円

被告武蔵青果株式会社は金六万四六五五円

被告埼玉県中央青果株式会社は金六万一七六一円

被告千葉県中央青果株式会社は金一一万二四八七円

被告船橋中央青果株式会社は金一〇万一六二三円

被告千葉青果株式会社は金五万〇四六六円

被告千葉県柏青果株式会社は金三万六一六九円

被告東葛中央青果株式会社は金七万六〇七九円

被告川崎中央青果株式会社は金一七万五一九五円

被告金港青果株式会社は金四八一三円

被告横浜丸中青果株式会社は金二四万九四九〇円

被告岐阜中央青果株式会社は金一万一七二〇円

被告株式会社大宮中央青果市場は金八万一六四四円

被告株式会社熊谷青果市場は金四万五一七二円

被告丸和浦和中央青果市場株式会社は金六万三四二三円

被告株式会社京葉企業センターは金八万八四〇五円

被告市川中央青果株式会社は金五万四二四四円

被告横須賀青果物株式会社は金一五万三七二二円

被告沼津青果株式会社は金六万三九六四円

被告三島青果株式会社は金六万七〇一三円

被告株式会社清水青果市場は金四万四二二四円

被告株式会社静岡青果市場は金三万四八六〇円

被告株式会社静岡合同青果市場は金二万四七九七円

被告静岡中央青果株式会社は金六万二五六七円

被告浜松中央青果株式会社は金三万七二〇八円

被告株式会社浜松合同青果市場は金六万七〇〇一円

被告株式会社吉原青果市場は金五万五四三四円

被告御殿場青果株式会社は金三万七一〇六円

被告株式会社東庵青果食品市場は金五万四一一九円

被告愛知県中央青果株式会社は金二四万〇六〇五円

被告大一青果株式会社は金一二万一一六一円

被告株式会社沼津第一青果は金三万九四一四円

被告東京築地青果株式会社は金一八万四四三五円

被告東京淀橋青果株式会社は金二〇万八六〇〇円

被告岐果岐阜青果株式会社は金一七万二一一〇円

及び

被告大垣中央魚介青果株式会社は金一六万三三二四円

並びに右各金員に対する昭和五一年五月二日から支払済みまで年六分の割合による金員を、いずれも原告に対し支払え。

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈省略〉

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、物品の運送業を営む者である。

2  原告は、漬物類の販売を業とする訴外株式会社桑原物産との間において、昭和五〇年五月から同年八月までの間、別表1ないし42記載のとおり、原告が各被告に対し、別表1ないし42記載の運送賃合計に対応する漬物類等の物品の運送をすることの契約を締結した。

3  各被告は、原告から、昭和五〇年五月から同年八月までの間、別表1ないし42記載の運送賃合計に対応する漬物類等の物品の引渡しを受けた。

4  そこで、原告は、荷受人である各被告から運送賃の支払を受けるべく、各被告に対し、昭和五一年四月二六日付内容証明郵便により、その運送賃の支払を催告する通知をしたところ、右郵便は、遅くとも同年五月一日までに各被告に配達された。

5  よつて、原告は被告らに対し、商法五八三条二項に基づき、各運送賃及びこれに対する催告後の昭和五一年五月二日から支払すみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否〈省略〉

三  抗弁

(被告ら全員)

1(一) 商法五八三条二項の規定は、荷受人が運送品の所有権を取得する場合に限り適用されるものであり、それ以外の場合には適用が排除されるものである。

(二) しかるところ、被告らは卸売市場法に基づき荷主の委託により物品の販売をなす者として、荷送人からの運送品を荷送人のために代理受領するのみであつて、運送品の所有権を取得する者ではない。

(三) 右のとおり、被告らは訴外株式会社桑原物産から送付を受けた漬物類等の所有権を取得する者ではないから、商法五八三条二項の荷受人にはあたらないものである。

2 原告は道路運送法一二条に基づく標準貨物運送約款(昭和四八年二月二一日運輸省告示第六三号)に従つて一般自動車運送事業をなす者であるが、同約款三二条一項には、運送人は貨物を受け取るときまでに荷送人から運賃を収受すること、同条三項には、一項の規定にかかわらず運送人は貨物を引き渡すときまでに荷受人から運賃を収受することを認めることがあること、の定めがなされている。

(二) したがつて、運送人が荷受人から運送賃を収受することができるのは、運送人が、予め荷送人の申出により荷受人が運送賃を支払うことを認め、かつ、荷受人に貨物を引き渡すときまでに限られることとなる。

(三) しかるに、運送人である原告と荷送人である訴外株式会社桑原物産との間においては荷受人である被告らが運送賃を支払う旨の特約はなく、被告らに漬物類等が引き渡されるときまでに原告が被告らに対して運送賃の支払を請求した事実はない。

(四) したがつて、商法五八三条二項の特則である道路運送法一二条に基づく運送約款三二条三項所定の要件を充足しないことにより、原告は荷受人である被告らに対しては運送賃を請求することができない。

3(一) 青果会社の卸売販売の業務は多数かつ大量の取引が短日間で行われるのであるから、青果会社が一々その運送賃の額ないしその支払の有無又は青果会社の右運送賃支払義務の有無を荷送人又は運送人に確認することは不可能である。

したがつて、青果会社に対する物品の運送契約においては、運送品の送り状等に、運送賃着払の記載又は運送賃額の記載をする等により荷受人が運送賃を支払う旨が明記されていない限り、運送人は荷受人に対し運送賃を請求しない、との事実たる慣習がある。

(二) 被告らはいずれも青果会社であるが訴外株式会社桑原物産から被告らに対する物品の送り状には荷受人が運送賃を支払う旨の明示の記載はなされていない。

(三) しかして、原告と右訴外会社との間における原告主張の運送契約においては、右(一)の慣習による旨の合意がなされていたものである。

(四) したがつて、商法五八三条二項の規定は民法九二条によりその適用が排除されるものである。

4(一) 原告は、被告らに対し漬物類等を引き渡すにあたりこれと共に訴外株式会社桑原物産名義の送り状を交付したが、右送り状には運送賃額を記載する欄及びこれを着払とするか元払とするかを記載する欄が存するところ、これらの欄には運送賃額の記載も着払の表示もなされていない。

(二) このことは、原告が当初から被告らに対しては運送賃を請求する意思を有しなかつたことの証左である。

そこで、被告らは運送品の売上金から、運送賃額を控除することなく、被告らの委託手数料だけを差し引いて訴外株式会社桑原物産に右残金を送金した。

その後、原告は荷送人である訴外株式会社桑原物産の倒産を契機として新たに被告らに対し請求意思を生ずるに至つたのである。

(三) 右のような事情のもとにおいては、原告の請求は信義則に反し、許されないものである。

5(一) 被告らは、卸売市場法及び県卸売市場条例による知事の許可を受けた青果市場業務規程に基づき業務を行つてきたものであるが、その業務規程三一条には、市場は卸売のための販売の委託の引受けについて受託契約約款を定めることができ、これを定めたときは関係者に周知させる旨の規定があり、これにより定められた受託契約約款中には、受託物品の運送賃は委託者の負担とする旨の規定がある。

(二) しかして、これらの業務規程及び約款は、関係者に周知させるため、同被告ら会社事務所に常時備え付けられていた。

(三) したがつて、原告は右関係者として右業務規程及び約款による拘束を受け、同被告らに対しては運送賃を請求することができない。〈以下、事実省略〉

理由

一請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二〈証拠判断略〉

三請求原因3の事実は当事者間に争いがない。

四請求原因4の事実は当事者間に争いがない。

五次に、抗弁1について検討するに、被告らは、商法五八三条二項の規定は、荷受人が運送品の所有権を取得する場合に限り適用されるものであり、それ以外の場合には適用が排除される旨主張するので、まず、右主張の当否につき検討する。

判旨物品運送契約上の荷受人に対し、運送品を受け取つたことを唯一の契機として、一種の法定責任としての運送賃の支払義務を負担させるのが、商法五八三条の法意である。

そして、右荷受人とは、到達地において自己の名で運送品を受け取るべき者を指称し、荷受人の範囲を運送品の所有権を取得する場合等に制限的に解すべき根拠はなく、右被告らの主張は独自の見解であつて、当裁判所は採用しない。

そして、被告らが到達地において自己の名で運送品を受け取るべき者に該当することは、前記二、三、の各事実及び証人飯島敏明の証言のとおりである。

したがつて、抗弁1は、その余の判断をするまでもなく理由がない。

六抗弁2について検討するに、そのうち(一)の事実は当事者間に争いがない。

判旨右標準貨物運送約款三二条一項は、第一に運送賃は荷送人から受け取るものとし、物品運送契約の原則を定め、第二に運送賃は運送人が運送品を受け取るときまでに運送賃を収受するものとし、運送業者の保護育成の見地から、運送賃の請求は運送の完了後でなければ行い得ない(民法六三三条)という請負契約の原則に対する特則を定めている。そして、右約款三二条三項は、第一に運送人は荷送人の申出により運送賃を荷受人から収受することを承諾することがある旨を定め、荷送人の便宜を図る見地から、運送賃は荷送人から収受するという右原則に対する特則を定め、第二に右運送賃を運送品の引渡前でも収受し得るものとし、運送業者の保護育成の見地から、運送賃を荷受人から収受し得るのは運送の完了後に限られるとする商法五八三条二項の特則を定めているとそれぞれ解される。

すなわち、右約款三二条三項の第二の特則は、商法五八三条二項の規定にかかわらず、運送人と荷送人とが事前に合意をすれば、運送品を引き渡すときまでに荷受人から運送料を収受する権限を運送人に対し付与したものに過ぎないと解すべきであり、右商法の規定に基づき運送品の引渡し後に運送料を荷受人に対し請求できないものとする趣旨であると解することはできない。

したがつて、抗弁2の(二)の被告らの主張は独自の解釈に基づくもので、当裁判所の採用するところではないので、その余の点について判断するまでもなく、抗弁2は理由がない。

七抗弁3について検討するに、そのうち、まず(一)から判断するに、〈証拠〉から次の各事実が認められ〈る。〉

1  被告らは、卸売市場で荷主(荷送人)と買受人との間の青果物の販売委託業務を担当する青果会社であるが、右卸売市場においては、荷主から青果会社に運び込まれる青果物の運送賃の支払方法は、運送品の送り状等に着払の記載又は運送賃額の記載がある場合に限つて荷受人である被告らが運送人に対して支払う、いわゆる着払の取扱いをし、右の場合以外は荷主である荷送人が支払う、いわゆる元払の取扱いが行われている。

2  そして、被告らが着払の取扱いで運送賃を運送人に支払つたときには、卸売市場法等の法的規制に従い青果物の売上金から販売委託手数料の外に右運送賃を控除して売上残金を荷送人である荷主側に青果物の受領後数日からせいぜい一〇日以内に返送しているが、前記送り状等に着払の記載も運送賃額の記載もなく、運送賃を右売上金から控除せずに荷送人に返金した後に運送人の請求により運送賃を支払わされたのでは、青果物の販売手数料を含む業務運営全般にわたり農林水産大臣又は都道府県知事の監督を受け、かつ、多数かつ大量の取引を行う被告ら青果会社としては、運送賃の支払方法、その額の確認等の労力ないし費用の増加及び荷送人から右運送賃の回収を受けられない危険の負担を伴うことは否めない。

3  しかし、被告らの属する卸売市場で、被告らが運送賃を運送人に支払う着払の取扱い自体が極めて少なく、その上着払の記載も運送賃額の記載もないため着払の取扱いをせずに、後日紛争が生じた事例は少なくとも皆無に近い程度である。

判旨右1の取扱いが通例で、かつ、右2のような事情が被告らに存するとしても、右1の取扱いは、荷送人と運送人との間の契約に従い、右取扱いが荷受人をも含めた運送契約の関係者の意思に合致している結果の現象に過ぎないこと及び右3の事実に照らすと、運送人が、荷送人との契約に従い、当初は荷送人から運送賃の支払を受ける意思で、送り状に着払の記載も運送賃額の記載もしなかつたため、荷受人である被告らにおいて運送品を受け取るに当たり着払の取扱いをしなかつた場合、もはや、後日運送人は商法五八三条二項に基づく一種の法定責任としての運送賃の支払を荷受人である被告らに請求しないという抗弁3の(一)の事実たる慣習が存在するとは認め難く、他に右事実たる慣習の存在を認めるに足りる証拠はない。すなわち、抗弁3の(一)は理由がない。

したがつて、抗弁3は、その余の判断をするまでもなく理由がない。

八抗弁4について検討する。

1  同4の(一)の事実は当事者間に争いがない。

2  次に、〈証拠〉から原告は荷送人である訴外株式会社桑原物産との間で、運送賃は右訴外会社から収受する約束をしていたこと、被告らは右1の事情から、運送品の売上金から運送賃を控除することなく、被告らの受け取るべき委託手数料だけを差し引いて残金を訴外会社に送金したこと、原告は訴外会社の倒産を契機として、運送賃を被告らに対し請求する意思を生ずるに至つたことが、それぞれ認められる。

3  しかしながら、運送賃を訴外会社から収受するという右約束は原告と右訴外会社間のものであり、商法五八三条二項に基づく荷受人たる被告らの運送賃の支払義務の消長に直接影響を与えるものではない。また商法五八三条二項は運送人が運送賃につき運送契約上の負担者である荷送人の倒産等の理由からその支払を受けられないような場合に運送人を保護する趣旨も含まれていると解される。

したがつて、被告らが運送品の売上金から運送賃を控除することなく、残金を訴外会社に送金したため、訴外会社から後日右運賃の立替金の回収を図ることが困難になつたという被告らの側の事情を十分勘案しても、原告が被告らに対し商法五八三条二項に基づく権利を行使することが信義則に反し、許されないものと解することはできず、抗弁4も理由がない。

九更に抗弁5について検討するに、同5の(一)の事実は当事者間に争いがない。

判旨しかしながら、被告らの受託契約約款中の受託物品の運送賃は委託者の負担とする旨の規定の趣旨は、荷受人である被告らと荷送人との間における運送賃の最終的な負担者を定めたものにとどまり、運送賃を荷受人としての被告らに対して請求し得ないことまでを定めたものとは解することができない。そして、現に被告らが荷受人として運送賃を運送人に対して支払う取扱い例が見受けられることは前記七に認定したとおりである。

すなわち、抗弁5の(三)の被告らの主張は独自の見解に基づくものであつて、当裁判所は採用しない。

したがつて、抗弁5は、その余の判断をするまでもなく理由がない。〈以下、省略〉

(宮﨑公男)

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